概日時計と藍色細菌(ラン藻)の紹介と学会で受けた質問



(Q1)藍色細菌が時計を持っている必要があるのか?例えば光合成だったら、光があたったらそれに必要な遺伝子を活発に発現させてやればいいのではないか。(卒業間近の研究室4年)

(A1)うーん、、、よくいわれます。この生物は、光を当てると様々な合成関係遺伝子が急速に発現量をかえます。つまり時計による調節メカニズムのほかに光合成遺伝子の発現をコントロールするメカニズムを持っています。これは遺伝子発現の光応答性として知られ、光環境変化に対応するための反応だと考えられる重要な性質です。学生いわく、「これだけで十分ではないか」と。しかし、実際時計を持っているからには重要な役割がそれにはあると考えたいところです。

時計による24時間周期の生理活性調節は、培養室のような競争のない条件下ではなくてもいいでしょう。自然条件下ではそうはいきません。
(1)日光を常に十分利用できるわけもないでしょうし、
(2)この生物の他に日光を唯一のエネルギー原としている生物は幾らでもまわりに存在しています。
日の出時刻を予測しあらかじめ光合成タンパクを合成したり、日の入りを予測し夜間不要な遺伝子の活性を低下させたり、といった自律的制御は、エネルギーを効率的に、高い確率で獲得し、エネルギー損失を押さえる上で重要であると考えられます。

そうはいっても、この核のない小さな(一見単純な)生き物が、生物時計を持っているというの不思議です。上述の光応答性を極限まで高性能化することも一つの生き抜く方法ではなかったのかと考えることもできるでしょう。 しかしながら、すでに高性能化する余地がないレベルに達しており、別の面で、つまり効率化が必要になったと考えることもできるでしょう。

(Q2)時計遺伝子の突然変異は生育に影響を与えないの?(ドイツ・ビーレフェルト大学の学生)

(A2)藍色細菌の時計遺伝子クラスターkaiABCを遺伝子破壊しても通常の連続明条件下では、生育に全く影響がでません。

 基礎生物学研究所の近藤、石浦両博士(現、名古屋大学大学院理学研究科、遺伝子実験施設教授)は機能が時計に特異的である遺伝子を同定するために、時計突然変異体をつくりだしました。彼等は変異処理後、(この細菌は環状ゲノムのコピーを複数細胞に持っているので)そのコピーすべてを変異型に置換させるために細胞を長期間何度も継代培養しました。この長期培養によって、上述した目的だけでなく、生育に異常のない変異体だけを選別することができたと考えられます。